ダブル オープン・ラチェット180年後の復刻 | チャペック原点回帰 2026年新作
機械式時計の裏側を眺めていると、ひときわ目を引く大きな歯車があります。 これは一般に「角穴車」または「ラチェットホイール」と呼ばれ、主ゼンマイを巻き上げるための重要な部品です。
CZAPEK(チャペック)の手巻きムーブメント「SXH1」には、このラチェットホイールが2枚並んだ 「ダブル・オープン・ラチェット」が採用されています。
それは単なる装飾ではありません。 時計を動かすための機能、約7日間のパワーリザーブ、そして19世紀から受け継がれる意匠をひとつにした、 CZAPEKを象徴する構造です。
そもそもラチェットホイールとは?
手巻き時計のリューズを回すと、その力は巻き上げ輪列を通じて香箱へ伝えられます。 香箱の中心には香箱真があり、その上に取り付けられている歯車がラチェットホイールです。
ラチェットホイールが香箱真を回転させることで、香箱内部の主ゼンマイが巻き上げられ、 時計を動かすエネルギーが蓄えられます。
また、ラチェットホイールは「コハゼ」と呼ばれる部品と組み合わされています。 コハゼが歯を押さえることで、巻き上げた主ゼンマイが逆方向へ戻ることを防ぎます。 手巻き時計を巻いたときに聞こえる小気味よい音も、このラチェットホイールとコハゼの働きによるものです。
「ダブル」と「オープン」が意味するものとは?
ツインバレル(2つの香箱)の構造へ
CZAPEKのキャリバーSXH1は、2つの香箱を備えたツインバレル構造です。 それぞれの香箱に対応する2枚のラチェットホイールが並ぶため、 「ダブル・ラチェット」と呼ばれています。
2つの香箱に蓄えられた動力によって、SXH1は約168時間、すなわち約7日間のパワーリザーブを実現しています。 一度しっかりと巻き上げれば、約1週間にわたって動き続ける設計です。
オープン — 機能部品を鑑賞するための透かし加工
「オープン」とは、ラチェットホイールに大きな開口部を設けた透かし構造を意味します。 円盤状の歯車をそのまま使用するのではなく、内部を大胆にくり抜くことで、 ムーブメントの奥行きや下にある機構が見えるようになります。
巻き上げる際には、透かし加工された2枚のラチェットホイールが回転します。 普段は静かに見えるムーブメントが、リューズを回した瞬間に動き出す。 その変化を視覚的に楽しめることも、ダブル・オープン・ラチェットの魅力です。
約7日間動くのは、ラチェットだけの効果ではない
ダブル・オープン・ラチェットについて、 「この2枚の歯車によって7日間動く」と説明されることがありますが、 厳密にはラチェットホイールだけが長時間駆動を生み出しているわけではありません。
約168時間のパワーリザーブを支えている中心的な要素は、 2つの香箱、主ゼンマイの長さ、輪列、脱進機などを含めたムーブメント全体の設計です。
ラチェットホイールは、リューズから受け取った力を香箱真へ伝え、 主ゼンマイを巻き上げるための部品です。 ダブル・オープン・ラチェットは、その重要な巻き上げ機構を隠さず、 時計の構造美として見せているのです。
機能部品に施される高級時計の仕上げ
CZAPEKのオープン・ラチェットには、表面を円状に整えるサーキュラーグレイン、 光を美しく反射させるポリッシュ、輪郭を斜めに削って磨き上げる面取りなどが施されています。
本来は主ゼンマイを巻くための実用部品ですが、機能するだけでは終わらせません。 歯車の形、開口部のバランス、表面仕上げ、光の反射まで計算し、 鑑賞に値する部品へと仕上げています。
これは、見えにくい場所にまで手をかけるオート・オルロジュリーの考え方を、 分かりやすく体現した部分といえるでしょう。
原型は1850年代の懐中時計「No.3430」答えは180年前に。
CZAPEKのダブル・オープン・ラチェットは、現代的なデザインとして突然生まれたものではありません。
その原型は、フランソワ・チャペックが1850年代に製作した 「No.3430」懐中時計に見ることができます。 この歴史的な懐中時計にも、左右に並ぶ一対のオープン・ラチェットが採用されていました。
現代のCZAPEKは、その歴史的なディテールを手巻きキャリバーSXH1に復活させました。 過去の時計をそのまま再現するのではなく、現代的なムーブメント設計や仕上げと組み合わせ、 21世紀の高級機械式時計として再構築しています。
CZAPEK(チャペック)以外にも同じ構造はあるのか?
ツインバレルを採用する時計や、ラチェットホイールを透かし加工した時計は、 CZAPEK以外のブランドにも存在します。
ただし、ツインバレルであれば必ず2枚のラチェットホイールが見えるわけではなく、 オープンワークのラチェットホイールがあっても、それが2枚とは限りません。それぞれ違いがあります。
| ブランド/モデル | 主な構造 | |
|---|---|---|
| CZAPEK Quai des Bergues |
ツインバレルと2枚のオープン・ラチェット | 歴史的意匠として2枚のラチェットを明確に強調 |
| Arnold & Son Time Pyramid |
2つの香箱とスケルトン化された縦型輪列 | ラチェットだけでなく、ムーブメント全体を建築的に見せる設計 |
| F.P. Journe Chronomètre Souverain |
2つの香箱を並列配置 | ツインバレル。安定した動力供給を重視し |
| Vulcain Cricket |
時刻用とアラーム用の独立した香箱 | 2つの香箱の用途が異なり、CZAPEKの長時間駆動用ツインバレルをアラーム用に改良 |
なかでもArnold & Sonの「Time Pyramid」は、2つの香箱と左右対称の構成を視覚的に楽しめるという点で、 CZAPEKと比較しやすい時計です。
一方、F.P. Journeの「Chronomètre Souverain」は、2つの香箱を並列に配置し、 脱進機へ安定した動力を供給することを重視しています。 同じツインバレルでも、ブランドによって目的や見せ方が異なることが分かります。
また、Vulcainの機械式アラーム「Cricket」にも2つの香箱がありますが、 一方は時計を動かすため、もう一方はアラームを鳴らすためのものです。 こちらもCZAPEKの構造とは目的が異なります。
CZAPEKならではの特徴とは
CZAPEK以外にも、ツインバレルやオープンワークのラチェットホイールを採用する時計は存在します。
しかし、2枚のラチェットホイールを左右対称に配置し、 それを1850年代の自社製懐中時計から受け継ぐブランドコードとして、 現代のムーブメントに復活させている点はCZAPEKならではです。
約7日間のパワーリザーブという実用性。 リューズを巻いたときに現れる歯車の動き。 丁寧な仕上げによって生まれる光の表情。 そして、フランソワ・チャペックの時計づくりへつながる歴史。
ダブル・オープン・ラチェットは、そのすべてをムーブメントの中に凝縮しています。
歯車の動きに歴史が宿る!
ダブル・オープン・ラチェットとは、 2つの香箱を巻き上げる2枚のラチェットホイールに透かし加工を施し、 その構造と動きを鑑賞できるようにしたものです。
それは単に時計を豪華に見せるための装飾ではありません。 主ゼンマイを巻き上げるという確かな役割を持ちながら、 機械式時計の構造美とブランドの歴史を伝える機能部品です。
裏蓋から見える2枚の歯車は、約7日間の動力を支えるツインバレルの存在を示すと同時に、 1850年代から現代へ続くCZAPEKの時計製造の記憶を静かに語っています。
CZAPEKの時計を見る機会があれば、文字盤だけでなく、ぜひケースバックにも目を向けてみてください。 2枚のオープン・ラチェットを理解することで、そのムーブメントはこれまで以上に魅力的に見えてくるはずです。