レゾナンス機構に挑む

レゾナンス機構に挑む

1.腕時計のレゾナンス機構とは?
まずはレゾナンスとは音楽用語で「共振」です。皆さん知っている「ノイズキャンセリング」のヘッドフォンを聞いたことがある方は「毎日使ってる」人もいると思います。特にスピーカーに「パッシブ」とか「アクティブ」等の種類があるのを知っている方はかなりの音の勉強家です。では何故時計にレゾナンス?
「アクティブ・ノイズキャンセリング」は物理的な方法を使わず、「周波数」でノイズを打ち消します。「パッシブ・ノイズキャンセリング」は物理的にノイズを打ち消します。
ノイズキャンセリングと.腕時計のレゾナンス機構には重要な繋がりがあります。
劇場であまり音が聞こえない席と音が聞こえる席。ありますよね?


音を音で打ち消す。これは音Aを「正位」、打ち消す音を通常「逆位相」と言います。 

この音の相関図を元に「逆位相」を発生させると、音が消えます。いわゆる「ノイズキャンセリング」の状況が発生します。


同時に腕時計でも正しく時間を刻む時計と狂ってしまう時計があります。
それは音楽で言う「正位」の音をできるだけ出そうとしている為、周波数はとてもきれいなグラフがになるのですが、低音や高音、そして音を魅力的にする倍音が含まれています。もちろんその中には「ノイズ」と呼ばれる音も入っています。すべて含めて良いというのは音楽の世界ではよくある事です。

ただし時計に関しては目的が違います。芸術的な時間を見せてくれる時計、つまり正確な時間ではない時計は、腕時計の用途としては少し違います。(個人的な意見ですが。)
アナログ技術で正確な機構を作り出すか?それが時計の面白い「時計沼」への梯子です。

レゾナンス機構は「共振機構」二つの独立したテンプが同時に回転し互いに共鳴し、余計な周波数を打ち消して、テンプに伝えるというまさに機械式腕時計の魔法のようでいて厳密に計算された機構です。

「スプリングドライブ」、「クォーツ」時計は周波数を水晶振動子やIC回路を使って調整している為、音楽で言う「アクティブ・ノイズキャンセリング」に近い構造をとっています。しかし「レゾナンス機構」はアナログの機械のみで作り上げ、周波数の操作もまたアナログという時計業界では異様な作り込みと言っても過言ではありません。


2.誰が最初に時計に実装したか?
まずは、最初にこの仕事に関わったのはやはりブレゲです。「Breguet No. 178」は二つの振り子を近接させ、互いに微妙な共鳴現象を起こさせて精度を向上した事で有名ですが、残念ながら現在ではもう見つける事は中々出来ません。

現代では、F.P.ジュルヌ(F.P. Journe)やH.モーザー(H. Moser & Cie)、Armin Stromなどが現代的なレゾナンス時計を復刻させています。

高級時計と言われる所以です。流石にここまで手をかけて機構を開発した時計には莫大な予算と人の知恵と手がかかっています。

表題の写真はArmin Stromの新作です。

3.時計ファンは何故アナログの機械にこだわるか?
幾つもの回答が用意されていると思いますが、個人的には設計書があれば復元が絶対可能だという事。ICチップや水晶振動子は全てを取り換えなければ修復が出来ません。何年その原材料が残っているかわからない為、やはり取り換えるのが修理技術としては楽だと思います。

しかしアナログをアナログが補正しているのであれば絵画と同じように、修理技師による手でアナログを作り出すことが出来ます。F.P.ジュルヌ、H.モーザー、Armin Stromも試行錯誤の上、設計し、部品を削り出して作ったので、何千後も同じパーツを設計し直す事が出来ます。
AI技術やCADソフトウェアがどれだけ進化しても最初の発想にはたどり着けない為、私達も大事にその発想を心に刻もうと思います。どちらにしても修理は大変ですが。

写真:F.P.ジュルヌ クロノメーター・レゾナンス(2つのバランスホイールによる共振により時間を補正する。

コントワーヌ代々木 03-3299-8008

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