チャペックがジュネーブの原点へ帰る | ケ・デ・ベルクに誕生した新フラッグシップブティック
CZAPEKがジュネーブの原点へ帰る ― Quai des Berguesに誕生した新フラッグシップブティック
時計ブランドにとって、「住所」がこれほど大きな意味を持つことは珍しいかもしれません。
2026年、CZAPEK(チャペック)はスイス・ジュネーブに新しいフラッグシップブティックをオープンしました。1839年、29番地。2026年、27番地。
その住所は、Quai des Bergues 27 ケ・デ・ベルグ27番地。
ジュネーブの中心を流れるローヌ川沿い。
現在のCZAPEKを知る人であれば、「Quai des Bergues」という名前にすぐ反応するかもしれません。
そう。
現代CZAPEKを象徴するコレクションのひとつ、「Quai des Bergues」と同じ名前です。
しかし、本当に面白いのはここからです。
新しいブティックの住所は27番地。
そのすぐそばにあるのが、
Quai des Bergues 29。
時計史に詳しい方なら、この「29」という数字にも意味があることに気づくでしょう。
1839年、物語は29番地から始まった
時間を187年前まで巻き戻します。
1839年。
François Czapek(フランソワ・チャペック)とAntoine Norbert de Patek(アントワーヌ・ノルベール・ド・パテック)による「Patek, Czapek & Cie」がジュネーブに設立されました。
その最初のマニュファクチュールが置かれていたのが、
Quai des Bergues 29。
これは現在のPatek Philippe公式資料にも記録されている歴史です。
のちに世界的なメゾンとなるPatek Philippeへと続く物語。
そして、CZAPEKへと続いていく物語。
二つの歴史が、まだ一つだった時代がここにありました。
1845年、両者はそれぞれの道へ進み、François CzapekはCzapek & Cieを設立。
そして長い時を経て、CZAPEKの名は2015年に現代の独立時計メゾンとして復活します。
それから11年。
2026年。
CZAPEKは再びQuai des Berguesへ戻ってきました。
新しい住所は27番地。
1839年の29番地から、わずか2番地です。
187年を経て、わずか2番地
1839年、29番地。
2026年、27番地。
数字だけを並べると、その距離はほんのわずかです。
しかし、その間には187年という時間が流れています。
懐中時計から腕時計へ。
職人たちの工房から巨大なマニュファクチュールへ。
機械式時計が実用品だった時代から、一度クォーツの波を経験し、そして再び「人が作る機械式時計」の価値が見直される時代へ。
時計産業そのものが大きく変化しました。
CZAPEKもまた、一度は歴史の表舞台から姿を消し、21世紀になって復活したメゾンです。
そのブランドが、自らの最初のコレクションに「Quai des Bergues」と名付け、そしてついには本当にQuai des Berguesへ戻ってきた。
新店舗をオープンした。
それだけでは少し足りない気がします。
これは、
「帰ってきた」
という言葉の方がふさわしい出来事なのかもしれません。
新ブティックはQuai des Bergues 27に置かれ、2026年7月に一般営業を開始。9月1日にはGeneva Watch Daysを前に正式なオープニングが行われました。
「Quai des Bergues」という時計の名前が違って見えてくる
CZAPEKを知る方にとって、Quai des Berguesは時計の名前でした。
クラシックなケース。
7日間パワーリザーブ。
独特のサブダイヤル配置。
そしてCZAPEK復活を象徴するコレクション。
しかし、その名前の背景を知ると見え方が変わります。
Quai des Berguesは、単に「ジュネーブらしい響き」を持った名称ではありません。
François Czapekの時計師としての歴史が刻まれた場所そのものなのです。
そして2026年。
時計につけられていたその名前と、現実の場所が再び重なりました。
ブランド復活時に時計へ刻んだ原点の名。
そこへ11年後、本当に自分たちのブティックを構える。
時計好きとしては、かなり美しい物語ではないでしょうか。
しかし、本当に興味深いのは「場所」だけではない
新しいCZAPEKブティックの写真を見ると、いわゆる高級時計ブティックとは少し違った空気を感じます。
荒々しい質感を残した石壁。
アメリカンウォールナット。
ミッドナイトブルーのAlcantara。
デザインコンセプトはLive Teamsとの協働で作られています。
そして、非常に象徴的なのが、
「販売カウンターがない」
ということです。
一般的な時計店では、スタッフとお客様の間にショーケースやカウンターがあります。
しかしCZAPEKの新ブティックでは、その境界をできるだけ取り払っています。
代わりに置かれているのは共有するテーブルと、開かれたディスプレイ。
訪れた人が時計を眺める。
手に取る。 座る。 そして話す。
空間そのものが、「transaction=取引」よりも「dialogue=対話」を中心に設計されています。
ブティックには、より深く時計やサービスについて話すためのリビングルームも設けられています。
「売る場所」ではなく、「時計について話す場所」
ここに、私たちは非常にCZAPEKらしいものを感じます。
時計を見せる。
値段を説明する。
そして販売する。
もちろんブティックですから、それも大切な役割です。
でも、それだけではない。
「どうしてこんなムーブメントを作ったのか」
「なぜこの文字盤なのか」
「このブランドはどこから来たのか」
「この時計を作っているのは、どんな人たちなのか」
一本の時計を間に置いて、人と人が話す。
新しいCZAPEKブティックが目指しているのは、そんな場所なのでしょう。
時計は取引の「終点」ではなく、人との関係が始まる「起点」。
新ブティックについての発表でも、そうした考え方が明確に表現されています。
そして、この考え方を知ったとき。
私たちは少し、親近感を覚えました。
ジュネーブの27番地と、東京・代々木のコントワーヌ
もちろん、ジュネーブのCZAPEKフラッグシップと、東京・代々木のコントワーヌでは規模も立場もまったく違います。
それでも、
「時計を売るだけの場所にはしたくない」
という部分には、どこか通じるものを感じます。
コントワーヌも、大通りに巨大なショーウインドーを構える時計店ではありません。
少し奥まったところにある、小さな隠れ家のような時計店です。
初めてお越しいただいた方から、
「こんなところに時計店があるんですね」
と言われることもあります。
でも、だからこそできることがあります。
静かな空間で時計を腕に載せる。
文字盤を見る。
時計を裏返してムーブメントを見る。
そして、
「これ、面白いですね」
という一言から話が始まる。
スペック表には書かれていないこと。
ブランドを作った人の話。
ムーブメントを作った人の話。
なぜこの針なのか。
なぜこの仕上げなのか。
写真で見るのと実際に腕に載せるのでは、どうしてこんなに印象が違うのか。
時計を買うかどうかを決める前に、
まず時計について話す。
私たちは、そんな時間をとても大切にしています。
インターネットで本当に腕時計を買うべきか?
今の時代考えさせられるテーマです。
私たちは腕時計は試着して、使い方を学び、ストラップを選んで、世間話をしてくれるお客様を優先しています。
今の時代と逆行していますが...

“We Collect Rare People.”
そして、CZAPEKにはブランドを象徴する、とても興味深い言葉があります。
“We Collect Rare People.”
直訳すれば、
「私たちは、稀有な人々を集める。」
高級時計ブランドなら、
Rare Watches――希少な時計を集める。
と言ってもおかしくありません。



